ある夏休みの日に

それは、小学校4年の夏休み、大きな入道雲の白と、紺に近い青が空を占拠した日だった。
僕は、いつもと変わらず学校のプールに行った後、何人かの友だちと遊んだり、ぶらぶらしたりしていた。今思うとよくあんな暑い中、一日中外にいられたものだ。次から次へと流れる汗はすぐに蒸発し、日差しはじりじりと、赤銅色に焼けた肌を突き刺す。風が吹くと、むせかえるような温風。立ち上る陽炎。
ふと、道路わきに目を向けると、見慣れない廃屋が・・いつも見慣れた家並みの隙間にひっそりと暗い室内が涼しそうだった。
「あれ、こんな家あったっけ?」
「いや、気づかなかったけど、あったような気がする。」
その廃屋に、比較的近いところに住んでいる、一人が答える。
「入ったことある?」「いや」
「入ってみようぜ」「ちょっと、やめようよ。」「行こう、行こう!」
・・・・半分開いているドアを、意味が無いことがわかっていながら軽くノックする。もちろん返事は無い。
ぎいぃ〜、と傾いだドアを押し開ける。中はひんやりとしている。どうも、一つしか部屋が無いようだが、結構広い。こんな空間をいままで見逃していたのか?いや、奥まっているから見逃したのかもしれないな。
「ねぇ、こっち見ろよ!」一人がささやく。見ると、お膳の上に食べかけの食事が載っている。その脇には、きれいに布団が敷いてある。誰かが寝た形跡は無い。
「ちょっと、気持ち悪いから今日は帰ろうよ」「そうしよう」
その日は、そこで引き上げることにした。外に出てみると、夕焼けで空が橙色に染まっている。
それぞれ、帰途につく。「あんなの、なかったよな??」僕たちはずっと疑問に思いながら、夕暮れの中家路を急ぐ・・・・

あくる日から4日間は、季節外れの雨だった。焼けた地表、ひび割れた地面をクールダウンする。
そして、雨が空けた日、久々のプールの後、僕たちは示し合わせたとおり、懐中電灯、なぜかロープ、ナイフ、ライターなどを持ち寄って集まった。もちろん、あの空き家を探検するためだ。そしてこの前と同じように、見慣れた家並みを見ながら例の場所に近づいていく・・・そこ、あの空き家の両側の家の間にはポツリとした空き地が。何本かの空き缶が捨ててあった・・・

それから、先日のメンバーはその場所を通るたびに「あの空き家」がないかどうか、二つの家の間を凝視する。もちろん目当てのものは見つからない。そのときいなかったクラスメイトたちに聞いても、あんなところに空き家などなかったよ、と。そうだよなぁ、自分たちだって、ずっとそんなの見たことなかったもんな・・
狐につままれたような気持ちで、僕たちの夏休みは終わった。その空き家は、次の年も、その次の年もやっぱりなかった。そのうち、大規模な区画整理があり、町並みはきれいに生まれ変わった。
僕たちが空き家を見た場所は、小さな公園の中、水のみ場になっていた。その公園と、付近の町並み一帯は、今も変わらず残っている。公園を歩くたびに、あの日の不思議な出来事と、その後続いた雨を思い出す。

それは、小学校4年夏休み、大きな入道雲の白と、紺に近い青が空を占拠した日だった。