昔を懐古してみる

モルダウ さいご

6日後の早朝、彼女は唐突に、私たちに別れを告げた。その美しい微笑を湛えたまま、あまりに静かに、そして心臓外科医の予想より遥かに長く生きた後に。 それを聞いたとき、抵抗なく受け入れることができた。 初めて涙がこみ上げたのはそれから2日後の朝、新…

モルダウ その2 つづき

困ったことに、そのとき私はスメタナのCDを持っていなかった。当然お店は閉まっている時間。私は友人に電話をかけてお願いした。こんな時間である。当然のごとく、木で鼻をくくるような対応をする。5人目に電話をしたK君は、普段冷静な私を知っているからか…

モルダウ その1

今際に彼女は「音楽が聴きたい」と、消え入るような声で囁いた。1996年3月22日午前2時30分。声を出すのも、つらいようだった。担当の医師は、彼女の病状を詳しくは告げなかったが、私は彼女の見かけより強い心を信じて、その状況を本人に話した。彼女は自分…

君とそばかすへ宛てて

首を傾げて私の顔をうかがう君、私より5歳くらい若い君の薄いそばかすがチャーミングでしたよ。 夏も終わりに差し掛かって、空は高く馬が太るらしい?季節のことでした。なぜ、君に気をとられるようになったのか、正確には覚えていません。初めて会った日か…

言葉にできない

新宿の街を歩いていて、まったく偶然に、ばったりと君に会った。 記憶と同じ、どこかもっと遠いところを眺めるような、超然とした表情だった。 実に2年ぶりだった。あたりは、そろそろ夜の帳が降りようとする、薄墨色の時間。7月の刺すような日差しが消えて…

ある夏休みの日に

それは、小学校4年の夏休み、大きな入道雲の白と、紺に近い青が空を占拠した日だった。 僕は、いつもと変わらず学校のプールに行った後、何人かの友だちと遊んだり、ぶらぶらしたりしていた。今思うとよくあんな暑い中、一日中外にいられたものだ。次から次…

ねこだまり

さてさて、実家にいたころ家のクルマを止めていた駐車スペースなんですが、ある時期からなぜかかわるがわる猫が居つくんですよね。特に冬なんか、車のボンネットの下があったかいから、のらちゃんの溜まり場に。そのころ、猫を4匹くらい飼っていたから、仲間…

*15歳の初夏 第11章

脳内BGM:ドビュッシー「亜麻色の髪の乙女」冬の始まり。毎朝チャリンコで切る風が日に日に冷たくなってゆく。窓ガラスに白い霜が。 なんだかな、張りがなくなっちゃったな、遊びにも、いろんなことに。ただ、漫然と時間が流れていくだけ。あきらめちゃった…

*大学院時代のわたし

●桜の頃 春は湿った生ぬるい空気と共に訪れた。 固い蕾を長々とたたえていた戸山公園のソメイヨシノも「せえの」、でその薄墨色を得意げにさらす。その日は薄曇りだったから、その淡い桃色は白いキャンバスに鮮やかに浮かび上がっていた。 そういえば、あの…

*15歳の初夏 第10章

脳内BGM:デレク アンド ザ ドミノス「Layla」ぼけーっとしていた。とことんぼけーっとしていた。上の空Returns Again・・ 友達からは「なんだよーお前勇気ないな〜」とかなじられたり。 いいんだよ、いいのさ、ぼけ〜 そろそろ勉強がやばくなってきたので、…

*15歳の初夏 第9章

脳内BGM:エミール・ワルトトイフェル「スケーターズワルツ」、エリック・サティ「Je te voux」文化祭のお化け屋敷は好評だった。と、いうかここまで凝ったものを作ったクラスはなかったんじゃないかなぁ。 文化祭の打ち上げ、ビールとお好み焼きで乾杯。担…

*15歳の初夏 第8章

脳内BGM:茶色の小瓶、A列車で行こう(デキシーランド風に派手〜な演奏)学校再開。やっぱり席替えになってしまった。がっかりを必死に隠す私。次の手を早急に練らねば。 それにしても意気地のない私。この性格はその後も続き、いんちきな技ばかり覚えるよう…

*15歳の初夏 第7章

脳内BGM:ジョージマイケル「Desafinado」、小野リサ「Moon Light Selenade」夏休みの中盤からは、新宿郵便局で配達のバイト。クソ暑い中を赤いチャリンコで大量の郵便物を配って回った。担当の地区は新宿御苑から外苑西通りを超えて、四谷、大京町、信濃町…

*15歳の初夏 第6章

脳内BGM:The BEATLES 「All My Loving」 織田裕二「あの夏が聞こえる」 B'z「太陽のKOMACHI ANGEL」 秋の文化祭で、「おばけやしき」をやろうということになっていた。その準備のため、たびたび学校へ行った。こんなに熱心に準備しているクラスはなかったん…

*15歳の初夏 第5章

脳内BGM:ビゼー 組曲「アルルの女」から「キャリヨン(鐘)」「パストラーレ」 夏休みをちょっと前にして、16歳になった。 学校をサボって鮫洲の試験場へ行き、原チャリの免許を取ってきた。あと、髪を栗色に染めてみた。初の愛車は、親戚からもらってき…

*15歳の初夏 第4章

脳内BGM:ANRI 「Innocent Time」「悲しみがとまらない」、 松本英子「Squall」仲の良いクラスメイツと「なぁなぁ、おまえ誰が好きなの?」とか、よく話したナー。答えると「やっぱそうか〜」とか、「誰にも言うなよ〜」とかわいわいがやがや。お互いに適当…

*15歳の初夏 第3章

脳内BGM:「When you wish upon a Star」 演奏:Europian Jazz Trio学校に行くのが楽しい。帰ってくるとちょっと残念。理由は明らか。 こんな気持ちになったのは、多分初めてだった・・うちに帰って、いつも悩んでいた。誰かさんじゃないけど、「心の空隙」…

*書いていて恥ずかしくなってくる

マジで恥ずかしくなってくる。止めようか・・・

*15歳の初夏 第2章

脳内BGM:The BEATLES 「Rock and Roll Music」、「A Hard Day's Night」朝、強い日差しの中をママチャリにのって、約15キロ離れたハイスクールに通う。はじめは地図を見ながら通ったが、1ヶ月たった今、だいぶ近道などもわかってくる。長い髪を振り乱して急…

*15歳の初夏 序章

脳内BGM:ヴィヴァルディ:和声と調和の試み(四季)「春」第三楽章 By イ・ムジチ合奏団 大通りから少し奥まった、校舎の5階の窓からは、見ているだけでにおいたつような桜の濃緑・・ 取り壊す前の古い校舎と、桜の陰になって、真昼でもほの暗い、緑色の光…