モルダウ さいご

6日後の早朝、彼女は唐突に、私たちに別れを告げた。その美しい微笑を湛えたまま、あまりに静かに、そして心臓外科医の予想より遥かに長く生きた後に。
それを聞いたとき、抵抗なく受け入れることができた。
初めて涙がこみ上げたのはそれから2日後の朝、新聞を読んでいる最中だった。特にそのことを考えていたわけでもなく、何の前触れもなかったが。ただ、涙だけが私の意思とは無関係にあふれた。

そして現在、私のCDラックにはクーベリック指揮の「我が祖国」が並んでいる。毎年3月22日になるとこの曲を聴き入る。こんなことは単なるセンチメンタリズムであることはわかっているのだが。
このとき私の眼前には、モルダウの悠久の流れと共に、彼女の微笑が圧倒的なリアリティを伴って鮮やかに浮かび上がる。