白いコーヒーカップ その10

私は虚をつかれてしまった。そういえば、今日の恵はきれいなアイラインを引いて、赤いルージュをさし、まつげもきれいにカールしている。どうせ、恵の好きな絶叫マシンに乗ったら一発で台無しだぜ、とか思いながらも
「そういや、今日のめぐ、ぱっとしてるよ」私は言った。
ぱっとしてる、その表現が的確だった。周囲の雰囲気からぬきんでてあでやかな印象を与える。雑草の中に咲いた花のようだった。
「めぐ、なんかきれい・・・だな」
「おだててるの?」
「いや、今日のめぐ、ぱっとしてるよ、鮮やかだよ・・」
恵は顔を赤らめてそっぽを向いて言った
「おだてても何もでないからね・・」
「いくん・・だよね?後楽園?」
「もちろんじゃん。リニアゲイルに乗りたいのよ、私は朝から。」
「じゃ、チャリできたからいこうぜ。」
「うん、乗せてってね。」
「あれ、めぐは?チャリじゃないの?」
「うん、今日はバス。だってあんたがチャリで来てくれることになってたでしょ」
私は頭をかきむしりながら言った
「チャリだって二人乗り禁止なんだぜ。」
「じゃあ、後ろについてるステップは何よ」
「はいはい、わかりましたよ、いこっ、めぐ!」
私は恵の手を引いて廊下へ駆け出した。恵も笑顔を浮かべながらついてくる。階段を駆け下り下駄箱で靴を履き替えて、駐輪場まで恵を引っ張っていく。もう、初めのころのような気恥ずかしさはなくなっていた。同級生も、私と恵が同類の「不良」であると思っていたのでだれも気にしていなかった。
「じゃあ、めぐ、後ろ乗って肩につかまってろよ」私は言った
「おう、頼むぜ」と恵。
後ろに乗った恵が、いつの間にか首にしがみついてくる。
「おい、どうしたんだよ」
「ゆれるだろ、危なっかしいんだよ、お前の運転は」
「じゃあ、そうしてなよ」私はぶっきらぼうに答えて、中央大学の前の坂をすごいスピードで下ってゆく。恵は首にしがみついてくる。気恥ずかしいくて私は顔を赤らめる。顔が熱くなるのを感じる。後楽園について、入場券をそれぞれ買った。「ねえ、こういうのってデートって言うのかな?」と恵。
「どうだろな、普段の延長みたいなもんだからな」と私はそっけなく答える。しかし、心の中では恵の言った「デート」という言葉に気をとられていた。
「じゃあ、いこうぜ、リニアゲイル」恵が叫ぶ。
「おう、いこう」と私。