白いコーヒーカップ その13

私は恵の住む池袋をあとにして、明治通りをひたすら王子方面に進む。途中、西巣鴨で中仙道に入って、赤羽方面へ。長い距離をチャリンコで走るのは大変だが、今日はなんかうきうきしていた。明日もチャリンコで学校に行こう、と思った。
家に帰り着いたのは、21時を少し回ったところだった。
「何してたの」母親が聞く。
「別になんでもないよ、あ、ご飯軽くでいいからね」
「ふーん」なんとなく悟った様子の母親は「はいはい、じゃ軽くね」と返す。
母はなんとなく勘がいいので隙を見せるわけにも行かない。
ご飯をお盆に載せて持ってくるなり、「あんた、香水のにおいがするわよ」とすぐにばれてしまった。「ま、趣味のいい香りだわね」恵が首にしがみついていたときのものだろう、確かにあのときの恵はいい香りをしていたなぁ、と言われてから思い出す。
「気立てのいい子なの?」と母
「うるさいなぁ、普通だよ、ふつう。」
「ま、あんたの普通だから、ちょっとやんちゃな子なんでしょうね」
私は食卓でご飯と味噌汁とお新香だけの食事を終えて牛乳を飲みに行った。
「で、キスくらいはしたの?」と母がささやく。
「してねーって」
こういった話にはまったく興味を示さない父は、淡々とビールを飲んでいた。
私は机に座って今日の出来事を思い出していた。私にしがみついてきた恵、デートという言葉、今度はラクーアに行こうね、と約束したこと、お化け屋敷で怖がっていた恵・・頭の中が恵だらけになってしまった。何を思っても、恵みの笑顔、ふくれっ面、怒った顔、が頭の中に浮かんでは消えていった。
自分でも、この気持ちがなんだかよくわからないで煩悶していた。はっきりさせるために、今度は自分がどこかに誘ってみようか、と思ったが、ネタがない。ネタはないがちょっとおいしい店に行って、少しお酒でも飲んでみようか、と思った。私は、Tokyo Walkerを開いて、適当なお店を探していた。カップルにお勧め、と書いてあるのに少しどぎまぎしながら、身の丈にあったお店を探していた。が、結局、通学路の途中にある「コパン」という、イタリアンレストランに誘うことにした。