濃緑の季節 その2

「いい、まずね、場所は千葉なの。」
「ふーん、そうなんだ。」
「で、ばあさんの家は民宿で、貸しボートもやってるのよ。」
「ふんふん、で、その貸しボート屋を手伝うんだよね。」
「そう、私と二人でね。」
「あ、やっぱりめぐも来るんだ、うれしいな。」
「バカ、当たり前だろ、私もあんたと一緒にいられるからうれしいよ。」
あまりにも素直な答えに、私は顔が赤くなるのを感じた。恵が、こんなにシンプルな答え方をするのは珍しかった。
「それでね、寝泊りはその民宿ね、いい?」
「・・うん。もちろん。」心中の乱れた心を悟られないようにすんなり答えたつもりだった。
「あんた、今いやらしいこと考えてたでしょ。」恵が指摘する。
「え、あ、・・うん、ちょっと。」隠せないことを悟って私は答える。
「やっぱり。あんた誘導尋問にかかりやすいな。扱いやすくてよかったよ。」
「ちぇ、もういやになってくるな、ほんと。」
「ははは、おもしれーの。ちょっと目を瞑りな。」
私は言われるままに目を瞑る。すると、しばらくして後ろから恵の声が聞こえてきた。
「じゃ、目を開けて後ろ向きな。」
私は目を開けながら後ろを向いた。するとそこに恵の顔が・・恵の唇が私の唇と重なる。私はドキッとして、つい飛びのきそうになったがそのまま恵の頭を抱いて長いキスをした。
恵の手が私の肩を押しのけ、私は呆然としながら恵の顔を見た。
「妄想するのは自由だぜ。」恵が言った。
私は恵の唇の感触を思い出しながら、顔が真っ赤になっているのを感じた。
「なんかおれ、恵の掌の中で踊らされてないか・・・?」私は、恵に言った。
「ばーか。今頃気づいたのかよ、言っただろ、私は天才だって。」
「・・なんか、おれ、恵のこと誤解してた。恵にこんなことさせて本当に悪かったよ、おれがしっかりしてないから・・」
「そうだぞ、お前がもっと男らしくすればいいんだ、わかったか?」恵が向かいの席に腰かけ、上目遣いに私をにらむ。
「ごめん、おれ、もっとしっかりするよ・・・」
「たのむぜ、私はか弱い女の子よ。」恵がかわいらしい声色で言う。
「ぷ、そうなのか?うん、そうだよな、そうだ。」私は答えた。
「バイトの話に戻るか?」恵が何もなかったように続ける。
「うん、頼むよ。」
「で、期間は・・・」
その日は、そのまま中大の食堂で食事をした。学校に戻るのも面倒だったので、そのまま帰る事にした。自転車の後ろに恵を乗せる前に、私は恵の肩を抱いて、軽くキスをした。そのまま、池袋に向かう。私の肩にもたれる恵が、耳元でささやく。
「うれしいよ、あんた、私のこと大切にしてくれてたんだね。」
「・・うん、恵を、粗末にできないって思った。でもそれだけじゃダメなんだね・・」私もささやく。恵は、私の首に手を回してぎゅっと抱きついてきた。
「ありがと。わたし、あんたがもっと好きになった。」恵が大きな声でいった。
「おれは、もっとめぐが大切になった。」私は答える。
「大事にしてね、これからもよろしく。」
「もちろん。」
恵の家の前に到着し、恵を自転車から降ろした。帰り際に、恵が爪先立ちで、私の首にもたれかかってきた。私は抗うことなく、恵を抱き、長いキスをした。
「じゃ、また明日な。」恵が大きな声で呼びかけてくる。
「うん、また明日。」私も負けないくらい大きな声で答えた。