忘れられない夏 その6

焼けた砂からの照り返しが私たちの肌を焼いた。あまりに溢れる光に目が痛くなってきた。遠くを見ると、濃紺の海が広がっている。そしてオレンジ色のブイが浮かんでいた。
「よし、じゃあ、まず軽くあそこのブイまで泳ごうぜ。」私は恵に声をかけた。
「おう、行こう行こう。」恵も乗り気だ。私も恵も泳ぎにはそこそこの自信があった。
二人して競ってブイを目指してクロールで泳ぎまくる。私が先にブイに到着して、その上につかまった。しばらくすると恵もたどり着いてきた。
「ぷはぁー、あんた、泳ぎは速いな。」
「昔っから、得意なんだよな、なぜか。」
「走ったりするのは苦手なのにな。」
「そうなんだよ、何でだろ。」
恵は、ブイから手を離して、私の体にしがみついてきた。
「お、おい・・」初めて感じる恵の素肌の感触が新鮮だった。
「こんなところ泳いでるやついないよ。」恵が私の前に回りこんで、首に腕を回す。私も恵を抱いてキスをした・・・がその瞬間水の中に沈んで行ってしまった。
「ぷはぁー!」私は半分おぼれかけて水面に顔を出した。ついつい気が緩んでしまっていた。
「あーおぼれそうになったの初めて。」私はそういって、ブイに結ばれたロープの上に足を置く
「つかれたぁ」恵もそう言って、ロープに足を下ろして、ブイにつかまった。遠く、白い砂浜に小さく人々が見える。
「あそこに看板たててるでしょ、あそこがボート屋だからね。」
「あ、あれかぁ。派手な看板だなぁ、ここからでも見分けられるぜ。
「一日やってると、疲れて大変だよ、あんた、しっかりしてよね。」
「めぐだって、バイトだろ。」
「力仕事はあんたやってね。」
「ちぇ、勝手なもんだぜ、本当に。」私はそういって恵の肩に手を回して抱き寄せた。
「明日から、がんばろーぜ。ところで恵ってなんかほしいものがあってバイトするの?」私は尋ねる。
「うん、まぁ、ちょっとね。」
「何がほしいの?ルイヴィトンのバッグとか?」
「そんなもんじゃねーって。ま、そのうち話すよ。」恵はそう言って話を打ち切った。私は不自然なものを感じないではなかったが、それ以上追求するのはやめた。
「さ、ボート屋の簡単な説明するから、ついてきな。」恵が私の手を引いて、平泳ぎで海岸を目指す。私は恵の後ろについて泳いでいった。看板のところにつくと、恵は少し年上の男性に私を紹介した。
「明日から、私と一緒に働くことになったからね、よろしく。」
「こちらこそ、よろしく頼むよ。」
「よろしくお願いします。」私はかしこまって答えた。
「今日は一日遊ぶことになってるから。あ、ボート一つ貸してね。」恵がオールを手にとって言う。
「じゃ、きみ、これを海まで運んで。」ボートを指差して言う。
私は、その重いボートを何とか海岸まで運んで、遠くから呼んでいる恵を呼び寄せる。「おーい、この辺から漕いでいこうぜ。」
「ちょっとまって、今行くから。」恵がオールを持って走りよってくる。
「貸して。」私は恵からオールを受け取って、ボートに乗り込んだ。恵も同時にボートの後ろにちょこんと座る。
「じゃあ、またあのブイのあたりまで行こうか。」私はそういって、ボートをこぎ始めた。なかなか難しい。しばらく同じところをぐるぐる回った後に、やっと前に進むことができた。肌を焦がすような強い日差しの中、私と恵を乗せたボートはゆっくりと進んでゆく。