忘れられない夏 その8

7月30日。その日は曇りで、肌を焼く日差しは穏やかだ。
「はぁー、たまにはこういう日も必要だよな。」恵に言った。
「雨でも降ってくれれば一日休めるのにね。」
「ははは、そうだね。」
その日は、客足こそ途絶えなかったが、肌を焼く猛烈な日差しがないだけでずいぶんと楽だった
「たまにはめぐもこっち手伝えよー。」
「やだもん。」
こんなことを言いながら、結構楽に、楽しく仕事をすることができた。夕方になっても天気が不安定なのは変わらず。私は恵に言った。
「おーい、そろそろ店じまいの時間だぜ、ボート揃ってる?」
「うん、揃ってるよ。」
「じゃあ、チェーンかけといて、おれも今行くから。」今日は貸し出しが少なかったので、スムーズに店じまいすることができた。いつもの時間より、30分くらい早く終わった。
「なぁ、めぐ、少し泳がない?」
「じゃあ、あのブイのところまで泳いでて、見捨てて帰るから。」
「おいおい。」
「うーそ。私もチェーンかけたら行くから、先に行ってて。」恵はそういいながら、ボートにチェーンを通して、鍵をかけている。私は、恵の作業が終わるのを待って呼んだ。
「おーい、行こうよ。」
「うん。じゃあ、今日は私の後ろについてきてね、疲れてるから。」恵がそう言って平泳ぎでブイを目指して泳ぎだす。ブイにたどり着くと、私がロープにつかまるのを待って、恵が抱きついてきた。
「お誕生日、おめでと。」
「え、あ、そういえばそうだった。」私は忙しい日々に自分の誕生日すら忘れていた。
「そういえば、めぐ、誕生日が・・・・」
「まったく覚えてたか。エロいやつめ。・・・うん、いいよ。」
私は顔を赤らめながらもぱっと明るい顔になって言った。
「ほんと?それって、そういうことだよね、間違ってないよね?」私はそういって、片手を恵の腕の下に通して、恵を抱き寄せた。恵は私が抱き寄せると、私のくびに手を回して抱きよってくる。
「お互いに、歩み寄って、でしょ。それを忘れないでね。」
「うん、わかった。」
話していたら、そろそろ帰りの時刻になったので、私と恵はクロールで海岸を目指して泳ぎ始めた。日が傾くころ、海岸について、Tシャツを羽織って帰路に着く。後ろから照らす太陽は、燃えるような色をしていた。