忘れられない夏 その9

その日の食事は、大盛りの刺身だった。東京で食べたらいくらするだろう?と思いながら刺身を食べていた。産地直送の刺身はおいしかった。そして、相変わらずひりひりする肌で、お風呂に入る。普段より念入りに体と頭を洗っている自分がいた。今日のブイでのやり取りの後、どうしても思考はそっちに行ってしまう。湯上りに浴衣を来て、部屋に戻ると、やはり湯上りで湯気の立っている恵がいた。
「あんたの誕生日、今日でいいんだよな?」
「ちがう、とか言ったらどうする?」私が言うと恵のほうから枕が3つ飛んできた。いずれも私にヒットした。
「バカ。そういう冗談は言うもんじゃないわよ。」
「ごめん、おれ、なんとなく恥ずかしくて・・」
「私だって一緒でしょ。せっかく勇気出してるのに。男だったらもっと男らしくしなさいよ。」恵にこの台詞を言われたのは、初めてではなかった。いつも、肝心なときは恵に頼ってきた関係、今度こそは、私がリードしようと思った。
「もうそろそろ、寝る時間だよね。」私はそういいながら、離して敷いてある布団を、隣どおしくっつけて敷きなおした。
「じゃん。」私は、恵のほうを向いて、顔を赤らめて言った。
「うふふふ、緊張してるわね。」恵は相変わらず、いつもの上目遣いで私のほうを見ながらニヤニヤしている。
「電気、消すよ。」私はそういって、赤球だけ残して部屋の照明を落とした。
恵は自分の布団に浴衣のままごろん、と寝転がった。私もその隣に浴衣を来て寝転がる。磁石のN極とS極が引かれあうように、私と恵は互いを抱き寄せた。恵の髪は、シャンプーの香りとともに潮の香りがした。お互いに何も言わずに浴衣の帯を解いた。そして、自然に、あまりにも自然にお互いの体を抱きしめた。私は恵を仰向けにして、その上に覆いかぶさる。
「あいたたた、背中痛いよ、もっとやさしくしてくれないと出てくわよ。」と恵。確かにこんなに日焼けした肌では痛いだろう。私は言った
「ごめん、おれ・・・」
「ははーん、初めてなんだ。」恵がからかう。
「え、めぐ・・は、ちがうの?」
「ばーか、初めてだよ、その辺のエロ高校生と一緒にすんなよ。」
私はほっとして恵の素肌を抱きしめた。
「いたいよな、おれ、こうしてるだけでいいよ・・」
「もうちょっと、そうしてて。」恵が答える。
その後は、あまりにも自然にお互いの体を求め合った。