雨が蕭蕭と降っている。
こんな夜は、君と、コートで雨を避けながら山下公園を歩いたことを思い出す。
大きな氷川丸を背にして、赤レンガのほうへ早足に歩いた。


君に出会ったその日、あんなにたくさん話が途切れなかったのに、そのときは一言、一言を口にするのが辛かった。きっと君もそうだったと思う。
駅まで歩いて、君にさよならを告げた。闇に映える桃色のボレロが水滴で光っていた。


あの日、あの時、あの場所で、起こるべくして起こってしまったあのこと。君は悲しそうな顔をしていたね。
過去は振り返らない、と自分に言い聞かせても無意識に心に浮かぶ、首を傾げたその顔・・・その表情、潤んだ瞳・・それが私をあのときに引き戻してしまう・・・そうだよね、悲しいよね。そのときの私はプライドばかり高くて自己を省みることをしない、卑怯な人間だったからわからなかったよ、ごめんね。