ある精神科医の手帳

Sさん 27歳 システムエンジニア

診断名:高度の不眠症自律神経失調症
3週間の休養、加療を要す

あなたが初めて私のクリニックに来た時、あなたはどうやっても眠れないと涙をこぼしていましたね。心と体、そして自律神経は強く結びついているものなのです。あなたは眠れない夜を明かして会社に行く生活を続けていたので身体的にも、精神的にも疲れきっていました。そんな生活をもっと続けていたら、取り返しのつかないことになっていたでしょう。あなたの企業は増収増益と仰っていましたが、どうしてだか分かりますか?日本全体が国際社会の中でぐんぐんキャッシュフローを増しているわけではないのですよ。あなたの会社はとても厳密な成果主義を掲げていると仰っていましたね。無駄はどんどん省き、業績に直結することを最優先する。今の潮流の中では当たり前になってきました。でも、私はそこに疑問を感じているのです。厳密な意味で「無駄」というのはありえるのでしょうか。一斉に花を開く桜も、路傍に生えるタンポポも、雑草も、自然というシステムの中で無駄なのでしょうか。同じように、企業の中で無駄というのはなんでしょうか。ゆったりとコーヒーを飲む時間、同僚と雑談をする時間、のんびりと仕事を進める社員、これらは無駄なのでしょうか。無駄、というなら、私はこれらを必要にして存在すべき無駄、と考えています。なのであなたも焦らないで。周りにとらわれず自分にあったワークスタイルを見つけて、適度に手を抜いてもいいのですよ。動いている機械に潤滑油は必要なものです。きっとあなたはぎすぎすした社会に翻弄されて疲弊しているのですよ。しばらくお休みになって、あなたなりの解を見つけてください。あなたにはそれが出来るはずです。

処方:毎食後にアナフラニール10mg、睡眠2時間前にヒルナミン5mg、睡眠前にハルシオン0.25mg、ロヒプノール1mg