ある精神科医の手帳

ケース5

Yさん28歳 無職

診断名:境界例

まず、お話しておきますが、あなたのような症状が出るのは珍しいことではありません。100人に一人はいるでしょう。なので、あなたが初診のときに言っていた「私はきちがいだ、もう死にたい」、という言葉は撤回してください。あと、私と「死なない約束」をしてください、いいですね。それと、お薬はきちんと飲んでください。前回みたいに一日で1週間分を飲んでも良くなりませんよ。
最近の世の中では、心を病む人がとても多いのです。これは日本社会が数字だけを追い求めて、無理な政策を掲げたり、無理な施策を実行したりすることが多いからです。いまだ、アメリカの後を追っている状態では健全な社会にはなりません。不健全な社会のゆがみには不健全な人が多く出てくるのです。私は精神科医を長年やっていますが、ここ数年で患者さんは激増しました。多くの方が社会の軋轢によって心を病んでいます。あなたもその一人です。引け目は感じないでください。社会が作り上げた病気がたくさんあるのですから。
最近首相が変わりましたね。私は小泉さんのほうが好きだったのですが、新しい首相は何をやっても70点、という思いです。ヨーロッパのように、スローライフが実現できるようになれば、私はこのクリニックをたたむことができるのではないかと思っています。患者さんを診るのは、私の心を切り売りしているようなもので、とても辛いのです。
薬を出しておきますから、きちっと毎日飲んでくださいね。そうすればよくなりますから。薬があわなければいつでも来て下さい。処方を考えます。私と二人三脚で治して行きましょう。

処方:フルメジン糖衣錠0.5g、リスパダール細粒1%0.03g、それぞれ夕食後、眠れないときの頓服としてアモバン7.5mg1錠