書きかけ(未完成雑文)2

「この子、私をつき合わせてバーとかに出入りしてるんだよ。」
「それは推定無罪
恭子は饒舌に憲法のことを語ろうとするが、これでは推定有罪だろう、とその場のみんなが思った。
私は冴島のことは良く知っていたが、恭子と会うのは2〜3回目であった。一緒にお酒を飲むのは初めてだったので、ずいぶんはじけた子だと思った。
「なぁ冴島、恭子っていつもこんな感じなの?」
私は小さな声で尋ねる。
「いや・・・普段は結構おとなしいよ。お酒も軽く飲むくらいだし。」
そうなのか?私は田原に耳打ちした。
「彼女、だいぶ酔ってるから、そろそろお開きにしたほうがいいんじゃないの?新聞に載るのは嫌だぜ。」
「そうだなぁ、とりあえず喫茶店で酔いを醒まそうか。」
私は立ち上がって
「恭子、お誕生日おめでとう。でもすこし飛ばしすぎだからここらでお開きにしよう。」と言った。恭子のほうを見ると渡りに船という形で
「ちょうど酔いすぎたころだったの。」
と背もたれに体を預けてとろんとした目で天井を見上げながらつぶやいた。
「じゃあさ、馬場の駅にあるルノワールでも行って酔いを醒まそうよ。」
「そうだね、ちょうど潮時。」みんなが頷く。店を出ると恭子はふらふらとして危なっかしいので私は恭子の腕をつかんで言った。
「大丈夫なのか?」
「んーちょっと飲みすぎちゃったかな、肩貸して。」
そういうから、恭子の左腕を肩に担いで歩き出した。冴島と田原は知らん振りをしておしゃべりをしている。
「ちょっと待てよ、追いつけないって。」
私がそう呼び止めると、田原が振り返って
ルノワールで4人分席とっておくからのんびりこいよ。」
恭子は泥酔状態で何を聞いてもよく分からない。以前のようにこのままタクシーに詰め込んで帰ろうかと思った。
「コーラ買ってきて、コーラ。」
恭子が言うから、私は近くの階段に恭子を座らせて自動販売機に行って買ってきた。
「ほら。」
私は恭子にコカコーラの缶を差し出す。恭子はうとうとしていて、差し出した缶を受け取ったものの一向に飲もうとしない。
「ほら、開けてあげるからかしな。」
私はそういって力なく恭子がつかんでいる500ml缶を取り上げる。プルタブをあけて恭子に返し、私も階段の隣に座り込んでコーラを開ける。恭子は少しずつコーラを飲みながら、階段の地面を見つめて言った。
「あー・・飲みすぎちゃった。ついつい飛ばしちゃうんだよね。」
「ハタチの誕生日くらい気持ちよく過ごそうよ。あれは誰が見ても飲みすぎ。あとペース速すぎ。」
「んー、だってうちの大学ってそういう雰囲気あるじゃない、ついついね。」
「確かにな。」
私もサークルの新歓コンパで路上で寝込んでしまったことを思い出した。あのころは飲むペースも分からずただ勧められるままに飲んでいたら、歩道脇で朝を迎えたものだ。あんまりに寒くて高田馬場駅まで走って、2〜3日寝込んだくらいだった。
「ほら、こんなところにずっといると風邪ひくから。」
私は恭子の腕をとって立ち上がらせようとしたけれど、ぐったりと座り込んでいる恭子は動かない。
「仕方ないな、ほら。」
私は恭子を背負って高田馬場駅に向かった。携帯電話をポケットから取り出して田原に電話する。
「恭子がもうグロッキーみたいだから、そっち行かないで送って帰るよ。」
「あ、そうなのか、悪いことしたな・・」
「仕方ない、恭子の家ってどこだっけ。」
「田町だよ、お前は平気なのか?」
「おれは平気。じゃあまたな。」
電話を切って背中の恭子を揺さぶる。
「家まで送っていくよ。」
恭子はしまりのない声で答える。
「男ひとりで送るのはマナー違反だよ、ははは・・」
「じゃあ、めんどくさいからまたタクシーに押し込んで帰るよ?」
私は少々むっとしながら答えた。せっかく背負ってまで送ってやると言うのに。
「冗談。送って・・・ください。」
「自分で歩けよ。」
私は恭子を下ろして腕を肩で担いで駅まで歩いていった。よたよたついてくる恭子のおかげでずいぶんと時間を使ったものだ。BIGBOXの前まで行くと恭子はすこし酔いがさめてきたのか
「いいよ、一人で帰れるから・・」
とつぶやく。私がむっとしていたのが伝わったのかもしれない。
「でもさ、だめ。足取りがばらばら。今日のところは送らせてもらう。」
私はそういって、また恭子の腕を取って駅に向かった。案の定恭子は山手線に座ると寝込んでしまった。列車の振動で私の肩にもたれかかってくる。アルコールのにおいに混ざって、微かな香水の香りが漂っていた。対面する窓ガラスに映った私と恭子は、まるで仲のよい恋人同士のように見えた。私はしばしその風景を楽しんだ。静かにしていると恭子もなかなか可愛いな、と思った。冴島のように目を引く綺麗さはないかもしれないが、可愛いな、と思った。右側を振り返り、寝顔をまじまじと見てつい赤面してしまった。私は鞄から読みかけの小説を取り出して続きを読み始めたが、文字を数えているようで一向に頭に入らなかった。私は恭子の頭を軽く小突いて
「ほら、そろそろ田町だよ。」
というと、恭子はふと目を覚まして言った。
「え、山手線?私どうしたの?」
まったく記憶にないらしい。
「まぁ、家に帰ってシャワー浴びて頭を冷やしな。ハタチってのは節度を持って行動できる歳、って言う意味なんだぞ。」