未完成雑文の断片 3

「え、山手線?私どうしたの?」
まったく記憶にないらしい。
「まぁ、家に帰ってシャワー浴びて頭を冷やしな。ハタチってのは節度を持って行動できる歳、って言う意味なんだぞ。」
「あなた、私を送ってくれたの?」
「あのまま放っておいたら凍死してるよ。」
まもなく列車は田町のプラットホームにするすると滑り込む。
「あとは、自分で帰れるか?」
私は心配そうな顔で恭子に尋ねた。
「うん、大丈夫。ごめんね、迷惑かけて・・」
「じゃあおれはこのまま山手線一周して帰るから、ちゃんとあったかくして寝ろよ。」
私はそういいながらもすこしほっとしていた。
「じゃ、ありがとう!」
そういったときの恭子の笑顔は、何か惹かれるところがあった。。
対面のガラスに恭子がいなくなったのがすこし残念だった。それから池袋に着くまで恭子のことを考えていた。
「まったく弱いくせに、調子に乗って。」
そうしている間に、ポケットで携帯が震える。恭子からだった。
「いま帰ったからね、これから寝る。ありがとう。」
「そうして。今電車だからこれで。」
私は携帯をたたんで向かいの窓の向こうの夜景を見ていた。右を向いてそこにある空間を見つめた。車体の揺れるのに任せて左右に揺られながら池袋につくまでの時間を過ごした。池袋に着いて、ポケットから携帯を取り出して冴島に電話した。
「恭子は家についたって言うからさ。」
「そう、あの子ってああ見えてデリケートなところもあるから、安心したよ。ごめんね、なんか面倒をかけちゃって。」
「明日の一限は出られないかもしれないよ、平気?」
私は冴島に聞く。同じ政経学部なのでたいていの授業は同じだろうと思った。
「あ、一限は出ないとだめ。私、朝モーニングコールして起こすから。」
「そうなんだ。大丈夫かな。」
「だったら、あなた電話して起こしてあげたら?」
からかっているのか、笑いながら冴島が言う。
「いいよ、冴島が起こしてやって。」
「せっかくチャンスあげたのに。」
冴島がまた笑いながら言う。
「わかったわ、まかせて。ご苦労様でした。」
「どういたしまして。」
私は携帯をたたんでポケットにしまう。冴島とは入学以来の付き合いだが、なんとなくずっと手のひらで遊ばされているような気分を感じることがあった。私は自分でも自覚していたがプライドだけは高かったのでいらいらすることもなんどもあったが、なんとなく憎めない。嫌なことも言うがいいところもあった。だが、いま私はそれ以上に見栄っ張りだけれど素直な恭子に心惹かれるのだった。
迷ったが結局、モーニングコールをするのはやめておいた。冴島が起こしてくれて、無事授業に出られたそうだ。