断片 しかもだめだめ8くらい

そう言ってしまうとすっきりした。そんな私を見ながら恭子は微笑んでいた。今まで見ていた恭子の笑顔に、いっそう温かみを感じる笑顔だった。そんな笑顔を見ていると、私の強がりで見栄っ張りな何かが氷が音をたてて瓦解するように解けていくのを感じた。恭子には素顔のままでいよう、と思った。

夜空の下、学生でにぎわう通りを抜けて歩いた。
「そのバイク、今度後ろに乗っけてくれない?」
突然、黙って歩いていた恭子が早口に言う。
「だってさ、気持ちよさそうじゃない。バイク乗ってる人って。ちょっと体験してみたくて。」
私はしばし考えた後に言った。からかうような声で恭子に言った。
「じゃあ、今度ヘルメットもうひとつ持ってくるからお台場でも行こうか。レインボーブリッジ渡って。あの辺の夜景は綺麗だよ。」
さてどう返してくるか、私は恭子のほうを横目で見ながらバイクを押し続けた。
メディアージュ、行きたい・・」
恭子が小さい声で返事をする。
「そ・・う。じゃあ、こんど行こうね。」
回答を準備していなかったので、ややしどろもどろになりながら私は答えた。私は軽くため息をついて、話を切り替えた。
「お台場だけじゃなくて、東京湾岸にはいいところがたくさんあるんだよ、高校生のころよくバイクで遊びに行ったよ。もちろん今とは全然違う風景だったけどね、潮風が気持ちいいよ。今のお台場は、ビーチになってるし、いろんなお店もあるから楽しめると思う。」
私が言うと、恭子はむくれた顔で言った
「田舎町から出てきた私にはさっぱりわかりません。」
「いや、そうじゃなくて・・」
「だから、今度いろいろ案内してね。でもずいぶん詳しいじゃない?誰と行ったの?」
恭子がからかうような目つきで私をにらむ。