或るネコの苦悩その1

彼〜今まで「ネコ」としか呼ばれたことがなく、名前をつけようとするものさえいない〜は狭い、窮屈な部屋の中で煩悶していた。
彼は頭の中で、何十回も、同じシーンをシミュレートしていた。が、答えは彼のあずかり知るところではない。それでも、何度も、何度も同じシーンを思い浮かべる。
彼にとってはそれは命を左右する事件。運命だからといって、はじめから考えることを放棄することなどできない。
彼はネコ。シュレディンガーのネコ。狭い箱の中に、放射性物質とともに幽閉されている。彼がこの後生きるも死ぬも、またその運命のときがいつ訪れるのかもすべては「確率」によってのみ決定される。そこに恣意的な判断が入り込む余地はまったくない。それでも彼は願い続ける。この箱を空ける人が、十分なLuckを持っていることを。

にゃ〜