審判 その8

私はシャンパンの準備をしたが、ふと思い直しグラスを片付けて、食器棚からジャックダニエルズと、オールドファッショングラス、アイスペールを持ってきた。このセットはお気に入りのもの。
私は気に入った食器を買って、使うことが好き。エルメスカップじゃないけど気に入った食器を使うと、紅茶やコーヒー、酒の味は5割増しになるような気がする。カップだとウエッジウッド、グラスはバカラウォーターフォードクリスタルが好きだった。学生のころから少ないバイト代で買ったカップやグラスもある。

ずっしりとした、滑らかな曲線のグラスに大きな氷を一つ入れて、香ばしい琥珀色の液体を注ぐ。つんとした香りが立ち上る。

グラスをかるく揺すると、アルコールが陽炎のようにゆらゆらしながら、氷の溶けた部分と混ざり合ってゆく。まだ氷があまり溶け始めないうちに、私は一口、確かめるように注いだバーボンを飲み下す。
刹那、のどから食道、胃につれて熱い刺激が伝わるのがわかる。バーボンのきつい香りを感じながら、続きの一口を飲む。

グラスをカラカラと揺すりながら、漠然と聴いていたJ-Waveは、いつの間にかヒットチャートをカウントダウンする番組に変わっている。私はほとんどテレビを見ないほうだったが、それでも小耳に挟んだことのあるメロディが流れている。キャッチーなメロディを聴きながら、今日の午後の出来事をぼおっとしてきた頭の中で思い出していた。あれは何だったのだろうか・・・