白いコーヒーカップ 後編

その次の日、朝から目にまぶしい光と生ぬるい空気が立ち込めていた。
よっしゃ、行くか!
今日は、自転車ではなくRG50γで出発。何も入っていない鞄をネットで結わえ付け、軽くキックを下ろす。プウワンッっと軽やかにエンジンが目覚めた。しばらく暖気のためにそのまま放っておく。エンジン音が軽くなり、回転が落ちてきたところでまたがって出発。ピンクの半帽ヘルメットから長い金髪が風になびく。ふだん自転車で走る上り坂を時速80キロで走りぬけ、ちょっと遠回りをして東京ドームの方から回ってゆく。急な上り坂を登ると中央大学理工学部キャンパスがある。ここは学食をレストランが経営しているのでおいしいと評判で、私も仲間同士で何度も来たものだ。

しばらく混雑した道を走り、校門の隣にγを停める。ちょうど、8時半だった。後ろから、パタパタと走りこんでくる音がする。振り返ると恵だった。
「やば、また遅刻じゃん」お互い頷きあって笑う。ゆっくりと靴を履き替えて、階段を上り4階の教室へ。隣同士の部屋に入るときに私は声をかけた
「なぁ、あとで中大にめしいかねー?」
「う・・ん、じゃあ3時間目にいこうよ、ちょうど古文でめんどくさくてさ」
「俺も数学だから、じゃあ行こうぜ」
それだけ行ってクラスに入る。教師に遅刻をとがめられる。私は遅刻、早退、欠時(授業サボり)の常習犯だったので適当にあやまって、窓側の一番後ろの席に座る。1時間目も数学・・・代数幾何だった。サボりすぎたおかげで何もわからない私は寝ているしかない。そのまま寝ていると、ゆさゆさと起こされた。「おい、あれ行かないと怒られるぞ」恵だった。私はとっさに「あ、そうだったね、行かないと・・呼ばれてたんだよな」と口裏を合わせて教室からでる。
校門を出て、私が欠伸をしていると、「なあ、チャリで行く?」と恵。
「あ、おれ原チャリなんだ」
「どれよ、みせて。」
私は校門のそばに停めてあるガンマを指差し、「これこれ」と答えた。自慢できるようなものじゃなかったし、傷もたくさんあった。
「じゃあ、これ乗っけてってよ」
「いちおう、禁止なんですけど」と答える私。
「いいじゃん、すぐそこじゃん?交番もないしさ」
と食い下がる。
「しょうがねぇなぁ、じゃ、これかぶって、あとステップがないから足気をつけろよ」と、ピンク色のヘルメットを恵に渡した。

ぷわーんと40キロ程度のスピードで走る「うわー速い!はえー」と後ろで恵がはしゃいでいるのが新鮮で楽しく、そしてちょっと、胸がどきどきした。

そして、中央大学に着くと、校門のそばにバイクを停めて、「じゃ、いこ。」とさそう。まだ3時間目なので、空いている。私たちは窓際のテーブルに陣取って、まずコーヒーをとってきた。恵もコーヒーはブラックで飲む。そして、ふと恵のカップを見ると赤いルージュが・・
「あれ、おまえ口紅してたんだ」
「さっきまで気づいてなかったのかよ、目立つだろ」
「いや、ぼーっとしていて・・・」
「いつもつけてるよ、ただし薄い色だけどね」
カップに残ったルージュの赤がやけに鮮やかに映った・・・(つづくかも)