白いコーヒーカップ その16

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「でさ、Queenのベスト盤が気に入っちゃってさ、毎日通学のときにCD聴いてるんだ。」
Queenは私はわかりませーん。」恵は、そうは言いながらも楽しそうに音楽の話に付き合ってくれている。私も、恵もほぼノンジャンルで音楽を聴いていて、好きな音楽にも共通点があった。
「私が今日聴いてきたのはこれ。」恵はCDを出してきた。ルービンシュタインラフマニノフのコンチェルト、2番と3番だった。
「あ、そういうの好きなんだ。おれも特に2番が好きだぜ、持ってるのはホロヴィッツのアルバムだけど。」
「ああいうシャープなのが好きなのね。私はまったりしたのが好き。」
アルゲリッチみたいのはちょっとアレだけど、ルービンシュタインも好きだよ。」
ロックから、クラシック、ジャズまで話ができるのは私にとって、恵だけだった。そして音楽談義をしていると時間が経つのも早くなってくる。外を見ると、そろそろ夕焼けの時間だ。だいぶ日が伸びてきた。腕時計を見ると、そろそろ18時。
「じゃあ、つれてけよ、いんなみ。」
「おう、恵は今日チャリ?」
「いや、バス。後ろ乗せてってくれよな。」
「いいぜ、じゃ、行こうか。」
窓から夕焼けが差し込む教室を後にして、自転車置き場に。
「乗っていいよ。」私は声をかける。
恵は後ろに乗って、また手を首に回してくる。この前と同じ、いい香りがする。なぜか今回はそれほど恥ずかしくもなかった。むしろ、心の中の思いが温められ、大きくなってくるのを感じてうれしかった。そんな私の気持ちを知ってか、知らないのか、恵は鼻歌を歌っている。私の耳のすぐ後ろで、恵が歌っている。その息遣いさえ感じられるようだった
「あそこだよ。」私は振り向いた。
振り向くと、恵の鼻と私の頬が触れ合った。恵は肩に絡めていた手をさっと離して、私の肩に手を置いた。
「知ってるに決まってるだろ、毎日通ってるんだから。」恵は少しギクシャクしながら話す。私も、胸が高鳴り、顔が熱くなるのを感じた。