忘れられない夏 その1

その日は6時ころに目が覚めた。今日は、終業式の日だ。成績も発表される。なんとなく胸騒ぎがして、早めに家を出た。学校に着くと、ホームルームが始まっていた。
「遅いぞ、いんなみ」担任が声をかける。
「すみません。早めに出たつもりなんですけど・・」
それから、緊迫のテストの返却の時間。5教科まとめて返却され、総合点と、順位、そして担任からのコメントが記載された紙がついてくる。
「つぎ、いんなみ」担任が呼ぶ。「一気にトップだな、毎回がんばれよ」
そういわれて私は脱力した。別紙を見ると私の総合点は695点/700点、順位は1/265であった。コメントの欄には「お前が一番自分のことをわかってるだろうから、何も言わん」とコメントがあった。私はそれを受け取って席に戻ると教室を抜け出して職員室の前の成績発表を見に行った。1位は私で 695点、2位は予想通り恵だった。693点。たった2点の差だった。3位は私のクラスのまじめなやつで、641点だった。3位以下に50点以上の差をつけて、私と恵の名前が大きく貼りだされていた。みていると恵が小走りにやってくる。
「あーあ、あんたにまた負けたわ、私だって693点だぞ。なんで負けるのよ。」恵が残念そうに言った。
「たった2点差。3位とは52点差だぞ、十分だって。」私は言ったが、正直ほっとしていた。なんとなく朝から恵に負けるような気がしていたからだ。いや、本当はそれを望んでいたのかもしれない。
「コメントに、驚いた、ってかかれちまったよ。」恵が言う。
「だってさ、今までと全然違うじゃん。いきなり超トップクラスだぜ。」
点数の横には学内の偏差値もかかれていた。私が91、恵が90だった。3位は78。とても大きな差をつけている。
「偏差値90も取ってれば十分だろ・・・」私はそういったが、次は負けるな、と思った。付け焼刃に近い恵の勉強で、一気に差を詰められてしまった。これはもう、恵の才能というしかない。あれほど苦手だと言っていた数学も、93点と100点だ。私は古文で5点落としていた。その他はすべて満点だった。
「くそ、もうちょっとであんたに勝てたのになぁ・・」恵はまだ愚痴をこぼしている。
「ま、結果は最高なんだからそれを喜ぼうぜ。」
「そうね、次は負けないよ。」私もそれは同じ気持ちだった。
「うん、次は勝てないと思う・・」私は素直に認めた。