忘れられない夏  その5

「じゃあ、あなたたちはこの部屋を使ってね。」と部屋に通された。結構広くて、小奇麗な部屋だった。冷房が気持ちいい。私は荷物を置いて
「なぁ、めぐ、今日はこれからどうすんだっけ。」と聞いた。
「しおりに書いておいたでしょ、海で遊ぶの。」恵が答える。
「いいの?仕事の話とか聞いておかないと・・・」
「それは明日の予定よ。今日は来るのと、遊ぶだけ。」
「そうなんだ。じゃ、行こうか。道案内してね。」恵に言った。
「おう。すぐそこだから着替えてから行こうぜ。」
「あ、そうなんだ・・どこで着替えるの?」
「ここに決まってるだろ、見たら蹴りいれるからな。向こうむいてろよ。」
私は言われたとおり、後ろを向いていた。後ろから恵の着替える音、声が聞こえる。振り向いて盗み見してやろうかと思ったが、蹴りがいやだったのでやめた。
「いいよ、こっち向いても。」恵が言う。
後ろを振り返ると、かわいい水着を着て、その上にTシャツをひっかけている恵がいた。「あ。めぐ、かわいいじゃん。」
「当たり前でしょ、私は何を着てもかわいいの。」恵が調子に乗ってくるくる回りながら鏡の前でいろいろなポーズを取っている。そして、私に抱きついてきて軽くキスをした。「お、おれも着替えるよ・・」
「はいはーい、じゃ、私お茶でも持ってくるね。その間に着替え終わってなかったら見ちゃうからな、さっさと着替えろよ。」ドアを開けて出て行く恵。私もいそいそと水着に着替えて、Tシャツを羽織った。ほぼ同じタイミングで、恵が大きなやかんとグラスを二つ持って、足でドアを開けては行ってきた。私はほっとした。
「お、着替えるの早いじゃん、麦茶飲んだら行こうね。」恵が二つのグラスに大きなやかんから麦茶を注ぐ。
「あー、やっぱ冷えた麦茶だよなー、それか麦ジュース。」私は大きく息をして言った。「そだね。」恵が頷く。
「じゃあ行こうか。」私は恵に目配せをした。
「うん、楽しみだな、あんたと海にこられたの、うれしいよ。」
そんなことを言いながら、私たちは歩いて5分くらいの海岸に向かった。