ドクター いんなみ?なの?

「ようちゃん?・・・」
扉を開けた私を見て麻子は目を丸くした。熱でぼんやりとした頭でしばし逡巡した後、自分の着ている白衣に気づく。
「あ、これマスターの頃の・・・」
麻子は黒いスウェードのブーツを乱暴に脱ぎ捨て、部屋に上がってくると床暖房の効いたカーペットの上に座り込む。
「ちょっと、連絡くらいくれてもいいじゃん・・」
「しょうがないじゃない、急に来たくなったんだから。」
私は寝込んでいたので丸一日洗っていない髪をかきむしって、見つめる目を見返す。麻子はゆっくりと私の首から、背中に腕を回す。
「ダメ、うつるよ・・」
しぶしぶ肩を押しのけると、麻子は後ろを向いて黙った。相変わらずぼんやりした頭で、なんと言おうか考えていたら、麻子が悪戯っぽい目をして振り返った。
「ねえ、先生?」
「え・・・?」
「診て。」
「・・」
「診て、っていってるの。私、昨日の朝からおなかが張ってるの・・」
「・・麻痺性イレウスとかだったら・・」
麻子は私の白衣の袖を掴んで、白衣とあまり変わらない白い素肌に私の手を当てて言う。
「だから、診て、くれるでしょ?」
「じゃあ、上を脱いで、そこに横になって・・・触診します・・」
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私は薬箱をがさごそと探しながら指示する。熱は上がったみたいだった。
ビオフェルミンを出しておきますから、食後に、ね。」
薬の束を受け取りながら、麻子がさっきと同じ悪戯っぽい目を向けた。
「うつった・・・よね・・?」
「・・たぶんね。抗生物質も入れておいたから、朝と夕に。ごめん、マジで熱が辛いから、寝かせて。」
私はそう言って、ベッドサイドにおいてあるリモコンで明かりを消した。頭がずきずきして寝られない私を横目に、麻子は寝ているようだ。
「ちぇ。」
そう言いながら、麻子の細い首に口づけした。白衣のように白い肌だった。
ゆっくりと麻子が半目を開けてつぶやく。
「・・ようちゃん、ううん、せんせい?・・あと私ね・・・」
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