心筋梗塞?

明け方に突然ひっぱたかれて目を覚ました。寝汗をぐっしょりかいていた。
目を開けると、朋子がペンライトをかざして私の目に見入る。
彼女のこんな真剣な表情は見たことがなかった。

「ど、どうしたの・・」
「うごかないで、ライトに光を目で追って。」
機械的な声で私に指示をして、朋子はペンライトを左右にうごかす。目がその光を追う様子を見て彼女はホッと肩で息をつく。
「塞栓は脳に回っていないみたい。でもいつ来るか分からないよ。」
真剣な表情で見つめる目に、背筋を冷やした。
「どうする・・のがいいかな・・?」
「救急車、いや、間に合わない、ポータブル持ってたよね?」
「倉庫においてある・・」
ふう、と彼女はため息をついたが、すぐに倉庫に向かってポータブルを押してきた。重いのに・・
「心カテやるよ、左腕をあげて。」
指示する彼女の声は脅迫に近い響きだった。私は動揺した。朋子は准看だよ。。?
「ちょ。。腿からじゃなくて・・脇から?」
「いいから!!」
カテーテルを手探りで入れる。正直恐ろしかった。
被爆するからね。覚悟して。」
X線を大量に浴びせかける。カテーテルはほとんど冠状動脈の直前だ。すばらしい。
「ステントで広げる?」
おどおどと尋ねる私。彼女は首を振りながらも、画面に見入っている。
「狭窄率85%、バルーンつかって吸引する。」
心の中で十字を切る私。それをよそ目に、てきぱきと作業を進める朋子・・・
瞬間的にバルーンをふくらませ、一瞬で吸引、さらに薄めたヘパリンを流し込む・・すべての手際がすばらしい。医師法違反であることは気にしないで置こう。
「吸引完了!」初めて笑い声をあげる朋子・・・・ちょっとまてよ・・・
ほらやった。カテーテルを雑に抜くから。脇の血管壁にでかい穴が開いたよ?出血してるよ?300ccくらいだよ?

・・・・・

・・・・

「止血、まかせた。」
そう言って朋子はコートを急いで着込んで帰ろうとする。
「おい・・・服着てから・・コート着ろよ・・・」
ベッドは血だらけ。救急箱から14ゲージの針を出して、カテーテルのあとに差し込んでヘパロック。このあとどうすればいいの?

ばたばたと帰って行く朋子。准看だからね。

でもね、下着着てから服着なよ。


手元の携帯で119。他に手段はない。なんていえばいいの?