夢七夜(久しぶりなのでイマイチ。)

第七夜


こんな夢を見た。


天井の近くの空中を浮遊していた。畳を見下ろすと今まで鏡の中で見慣れた女が静かに横たわっていた。
たいそうよく眠っているのだな、そう思って自分も眠ろうとしたのだが、帳がおりてこない。
仕方がないから目を開けて、女をよく見てみた。
静脈が透けて見えるような胸を半分くらいあらわにしている。
長い睫毛は、ひたと濡れそぼっている。切れ長の目の端から流れた涙が真っ白の化粧に一筋のラインを引いている。
長い黒髪には綺麗に櫛が入れられ、口紅は青白い顔と対照的に、触れれば熱いのではないかと言うくらいに深紅に輝いている。
「はて、いかがしたものだろう」
しばし逡巡しているうちに、窓から紫の曙光が差し込んでくる。
その弱々しい光に照らされて、女の肌はいっそう白く浮かび上がる

女のもとまで舞い降りて、濡れた睫毛を袂でぬぐい、指先で化粧の乱れを直した。それから、半分開いていたまぶたをそっと閉じてやった。
ガウンをきちんと着せて、その上に薄い、白い布団をかぶせた。
女は寂として動かない。
窓から差し込む日射しが白くなって、部屋を明々と照らすようになってもなおその整った表情を保っている。


じっとその顔を見ていた。
涙のあとを見ていると、哀しい音色が聞こえてきた。
くっきりと描かれた口紅を見ると、なおも哀しい。
綺麗に白く塗られた化粧を見ると、その音色は和音となって共鳴した。
赤みのない頬が照らされると、その音は壮絶な不協和音となって鳴り響いた。
しばらくそれを耐えていると、毒薬を飲んだときの苦みが込み上げてきた。涙の理由が舞い戻ってきた・・・


目を閉じたら、あたりは静寂に包まれ、何も感じない。
深い水中に佇んでいるようだった。


その後に、急に真っ暗な空間を非常なスピードで飛躍するのを感じた。
流れが止まって、目を開けた、初めて目に映ったのは、朗らかな笑みを浮かべる二人男女の顔だった。自らの小さな丸い手足を動かすたびに、涙を浮かべて笑う二人がいた。
初めて感じた味は、温かい母乳だった。
うれしさに笑顔を浮かべた。するとさっきまで感じていた哀しい和音、苦みの記憶は自然に消えていった。差し込む朝日は赤くて柔らかい頬を照らしていた。
その頬に触れる指先は温かかった。