死を看取る医者


患者の末期の時に苦痛を取り除いてあげる。そして、いまわの際に水を「処方」してあげ、手を合わせてくれる。

私はこんな医者がいてもいいと思う。

人を救えないのは医者の技量ではない。その人は神に導かれて死に行くのだ。
いちどそっちに呼ばれてしまった患者を、中途半端な状態で生かすこと、これで誰が救われるのだろう?
そっちに呼ばれている患者の手を離して、お辞儀をして見送ってあげる。これでどれだけ救われることだろう。

私が命の分かれ目にさしかかったときは、そんな医者に近くにいて欲しい。

救命センターで命を救われた私はそう思う。

一度私は、叔父を見送ったことがある。19歳の冬。
汗を振りまいて心臓マッサージをする医師。両親、叔母のいる場で私はその医師の手を取って首を振った。
「どうか、一緒に手を合わせてください」
そう告げる。医師は時間を静かに告げて、手を合わせてくれた。
その場にいた親族もみんな、だまって手を合わせた。

みんな、神の示す道を感じ取っていたのだ。

手を合わせてくれた医師に、みんなが涙ながらお礼をして、散会した。
そんな経験がある。