審判 その3

プロローグ 〜再会〜

明るい空とほのかに冷たい風が、私のほほを撫でていった。

ジャケットの下を通り過ぎる風・・。薄墨色の空に氷川丸の大きな姿が圧倒的だ。晴天とはいえないが、この季節になると太陽の光はとても明るい。うみねこの声を聞きながら、私は氷川丸の前まで来ると、手すりにもたれて缶コーヒーを開けた。この景色は何も変わっていない。


年年歳歳花相似、歳歳年年人不同。私の中の世界、いやこの世のすべての人にとっての世界は、この3年でどれだけ変わったことだろうか。しかし、今眼前にそびえる景色、これは3年前のままだ。

私は軽い眩暈のようなものを感じて、振り返って座れる場所を探す。まだ肌寒いこの季節、空いているベンチはすぐに見つかった。私はそこにゆっくりと腰かけ、財布からレキソタンを一錠取り出し、コーヒーの残りで飲み下した。不安感の予兆があったからだ。たいてい、いつもたいしたことが無いのだが、お守りとして財布にこのトランキライザーを入れている。

ほとんど読み終わった読みかけの本をトートバッグから取り出して、しおりを挟んだページを開く。リチャード・ノース・パタースンの小説だったが、私はすでに大体内容が飲み込めてきていて、ラストの部分をお楽しみにとっておいた。そのお楽しみをここ、山下公園で読もうと思って散歩に出かけてきたのだ。

特に理由は無いのだが、私はこの山下町、元町の界隈が好きであった。私の住むマンションも、ここ、山下町のすこし中華街よりの辺りにある。中華街の喧騒の中に出てみるのも、また私のお気に入りの休日の過ごし方であった。中華街には、雑多でよくわからない店が立ち並び、そういった店をのぞいて回るのが好きであった。たいてい昼食は300円の大きな肉まんで、ちょっと贅沢をしたいときにはおやつに月餅を。そんな休日を過ごすこともあった・・

(・・誰か読んでたら続く・・)