秋の夕暮れに その7

そのときは突然訪れた。電話が鳴った。その瞬間私は何かを感じて電話に走った。電話に出ると、やはり病院からだった。恵の父親が涙声でいった。「今すぐ来てください・・」私はすぐにヘルメットをとって、γを飛ばした。20分で病院に着くと312号室に向かって走った。恵は苦しそうだった。とても苦しそうだった。気管に挿入された管ははずされていた。消え入りそうな命を目の前にして私はなすすべもなくへたり込んだ。ベッドサイドのモニタは消え入りそうな心拍を捕らえて「高度の序脈」と表示している。医師は必死に心臓マッサージをしている。それでも回復しないようで、「カウンターショック持ってきて、260から!」ナースに叫ぶ。ナースはすぐにカウンターショックを取りに走る。「バン!」大きな音がして、モニターの心拍のグラフが一瞬振り切れて、また細動に戻る。「次、300!」と当直の医師が叫ぶ。また、大きな音とともに、恵の体が痙攣する。しかし、心拍は戻ってこない。「エピネフリン心注して、 次、360!」目の前で行われている光景を見て、私はドクターたちの声が水の中で聞こえるような気がした。「戻ってきたぞ!」ドクターたちが歓声を上げた。モニタを見ると、恵の心拍が再開していた。
そして、その後も、恵の心拍はしっかりと続いた。そして主治医は両親を連れてカンファレンスルームへ行った。しばらくすると、目を泣き腫らした恵の両親と、主治医が帰ってきた。
「いんなみさん、やっぱり、恵、もう持たないって・・」恵の母が弱々しく言った。
「え・・でも心拍は戻ったじゃありませんか。」
「だんだん、弱くなるだろうって。今回みたいに急に止まっちゃうこともあるかもしれないって・・」
「そうなんですか・・・・」私は答えた。
覚悟しなければいけないのか、そんな、そんな、何で・・・私はやりきれない思いをどこにぶつけていいのかわからずに、しゃがみこんで頭を抱えた。
「あと、恵にたのまれてたの、これを渡してって・・」恵の母が一枚のカードを私に渡す。
「長くもながと 思ひけるかな・・」私はその字札を小さな声で読み上げた。そして恵のほうを振り返った。涙が止まらなかった。こんなに気持ちよさそうに眠っている恵、その寝顔・・信じられなかった。
「めぐ、めぐ、おれ・・」言葉は嗚咽に変わった・・