雑文書き散らし

秋の夕暮れに その2

そして翌日。私は早起きして池袋駅に向かった。8時50分ころに40面に着いたが、恵はまだ来ていない。9時5分ころになって恵がパタパタと走ってくるのが見えた。 「ごめーん、宿題で寝不足でさ、寝坊しちゃった。」 「で、終わったの?」 「うーんとね、…

秋の夕暮れに その1

私と恵は、電車で自宅へと帰っていった。 別れ際に、「じゃあ、2学期にまた。」とお互い挨拶を交わして 夏休みが終わり、夜になると秋の虫の声が耳にやかましいほど聞こえるようになった。もちろん、まだ日中は焼けたオーブンのように暑い日々が続いていた。…

忘れられない夏 その10

毎日の仕事は続いた。8月になって、いっそう暑くなったが、日差しは少し和らいだ。遠く雲を望むと、それまでの入道雲から、空の高いところに薄く掃いたような雲に変わっていった。夏のビーチで働いていてつらいのは、気温ではなく、オーブンのように肌を焼…

忘れられない夏 その9

その日の食事は、大盛りの刺身だった。東京で食べたらいくらするだろう?と思いながら刺身を食べていた。産地直送の刺身はおいしかった。そして、相変わらずひりひりする肌で、お風呂に入る。普段より念入りに体と頭を洗っている自分がいた。今日のブイでの…

忘れられない夏 その8

7月30日。その日は曇りで、肌を焼く日差しは穏やかだ。 「はぁー、たまにはこういう日も必要だよな。」恵に言った。 「雨でも降ってくれれば一日休めるのにね。」 「ははは、そうだね。」 その日は、客足こそ途絶えなかったが、肌を焼く猛烈な日差しがな…

忘れられない夏 その7

その翌日から、私たちは仕事始めだ。恵が貸し出しの手続きをし、私がボートを運んだり、引き上げたりする。ずいぶん不公平なものだ。2日目にもなると、二人とも体が真っ赤に日焼けする。 「風呂はいるとひりひりするんだよな、日差し、強烈過ぎるよ。」 「私…

忘れられない夏 その6

焼けた砂からの照り返しが私たちの肌を焼いた。あまりに溢れる光に目が痛くなってきた。遠くを見ると、濃紺の海が広がっている。そしてオレンジ色のブイが浮かんでいた。 「よし、じゃあ、まず軽くあそこのブイまで泳ごうぜ。」私は恵に声をかけた。 「おう…

忘れられない夏  その5

「じゃあ、あなたたちはこの部屋を使ってね。」と部屋に通された。結構広くて、小奇麗な部屋だった。冷房が気持ちいい。私は荷物を置いて 「なぁ、めぐ、今日はこれからどうすんだっけ。」と聞いた。 「しおりに書いておいたでしょ、海で遊ぶの。」恵が答え…

忘れられない夏 その4

7月23日の朝、私は早起きして、荷物をチェックした。忘れたものはないかな、と考えて、通学鞄から赤本を取り出してボストンバッグに詰めた。その鞄を肩に担いで、私は池袋に向かった。埼京線に乗って、しばらくすると池袋駅につく。ホームから階段を下り…

忘れられない夏 その3

私たちは、学校に戻って進路指導室にむかった。私は早稲田(理工)の赤本、恵は早稲田(文)の赤本を持って職員室に行った。進路指導の担当は、私のクラスの担任だった。 「先生、これ、借りて行っていいですか?」私と恵は言った。 「2年生が赤本か・・お…

忘れられない夏 その2

「中大行こうか。」私は誘った。 「そうね。乗せてってね。」 私と恵は終業式の後に中央大に行くことにした。もちろん食事が目当てだ。大学生たちはすでに休みに入っているようで、閑散としている。食堂も閑散としていた。私と恵は焼肉定食を取ってきて、大…

忘れられない夏 その1

その日は6時ころに目が覚めた。今日は、終業式の日だ。成績も発表される。なんとなく胸騒ぎがして、早めに家を出た。学校に着くと、ホームルームが始まっていた。 「遅いぞ、いんなみ」担任が声をかける。 「すみません。早めに出たつもりなんですけど・・」…

濃緑の季節 その17

それから、いくつか乗り物に乗って、夕方を迎えた。 「はー、暑かったし、疲れたね。どうする、これから?」 私は恵に尋ねる。 「私、遅くなるかも、って言ってきたよ。どうしようか。」恵の言葉にどきりとした。 「・・・じゃあさ、ラクーア行ったあと、こ…

濃緑の季節 その16

私はちょっときれいなシャツにアイロンをかけて着替え、トーストを焼いて食べた。 そして自転車で池袋へ向かう。真夏日だったので汗をかいてきて、アイロンをかけたシャツは台無しになってしまった。恵の家に着き、チャイムを鳴らす。しばらくすると、恵の母…

濃緑の季節 その15

翌日、午後1時くらいに電話の音で目が覚めた。母が私のところに電話を持ってくる。 「恵ちゃんからよ。」そういって私に受話器を渡した。 「もひもひ。」まだよく目が覚めていない私は答える。 「どう、よく寝られた?私は昨日帰宅してから今日のお昼まで眠…

君がいた夏

君と出会わなければ、見られない景色があった。 君と出会わなければ、感じられない風があった。 そして、君と出会わなければ、得られない充実があった。君はもういないけれど、十数年前に思いを馳せることが何度あっただろうか。 あの夏の曙光、肌を焼く日差…

濃緑の季節 その14

そんな毎日を過ごしているうちに、試験の日々を迎えた。私も恵も、十分勉強して試験に挑むのは初めての経験であった。試験の最終日、私も恵も目の下にくまを作っていた。 「おはよう・・」私は元気のない声で言った。 「よう・・疲れた・・」恵はさらに元気…

濃緑の季節 その13

そんなことを言いながら、後楽園校舎に到着した。昼休みの校舎はがやがやと人で溢れている。学食も混みあっていた。なんとか二人分の席を確保すると、二人ともパスタを注文した。私は参考書を持ってきていたが、開く気は無かった。恵がそれを見つけて、言っ…

濃緑の季節 その12

翌朝、私はじりじりと顔に照りつける日差しで目を覚ました。時計を見ると、10時。休もうかとも思ったが、恵に会いたかったので学校に行くことにした。のんびりと着替えて、のんびりと髪をとかす。そして、ボストンバッグを持ってドアを開けた。真夏日の強…

水辺にて。

水辺は、みなもから漂う香りが気持ちいいと、あなたは言いましたね。 よく、噴水のあるあの公園に行ったものでした。 「わぁ〜虹がかかってる!」そう言って噴水にできた小さな虹を見せてくれましたね。小さな虹、でも、大空にかかる虹と同じ色の虹。 光と、…

濃緑の季節 その11

予定表を作り終えると、私は予定通り基礎解析の問題集から手をつけ始めた。想定どおり、ほぼ完璧に理解していたのですぐに終わって、ケアレスミスを除けばほぼ満点に近い。私は壁のスケジュール表に「ケアレスミスに注意、見直しをすること」と書き込む。次…

濃緑の季節 その10

「ま、じゃあ、期末テストで頑張ってみますか。1週間あれば何とかなるでしょ。」 「私は、数学中心に頑張るよ。国語系はあんたに負けるつもりはないからな。」 「じゃあ、おれは国語と英語をやってみる。めぐに負けっぱなしというわけにも行かないぜ、今回…

濃緑の季節 その9

教室に戻ると、またも皆の注目。 「おい・・・食後に戻ってくるなんて・・珍しいな・・なんかあったか?」 「まぁな。」私は短く答えて自分の席につく。睡魔が襲ってくる。私はそれに抗うことをせず、眠りにつく・・ 「おい、起きろよ。」ボールペンで後頭部…

濃緑の季節 その8

「なぁ、めぐ、おれたち『彼氏』と『彼女』ってやつだよな。」私はバカな事を聞く。 「ぷっ、何いってんのさ、いまさら。そうだよ。」 「なんか、やってること前とあんまり変わらないよね。」 「そだね、あんたは前から私のことが好きだった。私もあんたのこ…

濃緑の季節 その7

なんか、恵と同じようなことをしていたのがわかって可笑しかった。 「おれたち、いつも寝てるからな。そりゃ嫌気もさすでしょ。」 そんなことを話していると、サラダとスープが運ばれてきた。ランチなので、どちらも控えめな量だ。店内ではボサノヴァがかか…

濃緑の季節 その6

「あー、めぐもおんなじ気持ちなのかなぁ・・」私はそう思ってため息をついていた。 私はそのまま4時間目の終わりまで居眠りせずに授業を聞いていた。入ってくる教師がみんなして「お、いんなみはきょうはお目覚めか?」と突っ込みを入れてくる。 「はい、さ…

濃緑の季節 その5

・・・ しかし、私が目を覚ましたのは、英語の文法の授業中に教師につつかれて 「おいいんなみ、これを訳せ、って言ったのが聞こえなかったか?」といわれたときだった。私はあたふたしながら黒板を見て、 「えーと、ですね、それは『I think it not at all …

濃緑の季節 その4

春日通りをゆっくりと流して、学校に着いた。校門の脇にバイクを止めて、校舎へ向かう。そうすると、少し前に茶色い髪の恵を見つけた。 「おはよー、恵!」私は呼びかけ、恵に走りよった。 「あら、今日は早いじゃないの、どうしたの?」 「めぐだって、ずい…

濃緑の季節 その3

そこからは、いつもの道をゆっくりと走って、自宅に到着した。まだお昼の出来事、その後のやり取りを思い出してぼおっとしていた。ドアを開けるなり、 「今日、ご飯いらないから。」私は言った。 「食べてきたの?」 「いや、ちょっと、ね。」 私は机に座っ…

濃緑の季節 その2

「いい、まずね、場所は千葉なの。」 「ふーん、そうなんだ。」 「で、ばあさんの家は民宿で、貸しボートもやってるのよ。」 「ふんふん、で、その貸しボート屋を手伝うんだよね。」 「そう、私と二人でね。」 「あ、やっぱりめぐも来るんだ、うれしいな。」…