雑文書き散らし

濃緑の季節 その1

緑が濃い季節がやってきた。木漏れ日が教室に力強く差し込む。冷房のない教室は、2時間目の初めにはすでに蒸し暑くなってくる。私は珍しく朝から登校して、退屈な授業を聞いていた。寝ようと思ってもどうも眠れなかった。恵の気持ちを確認した後も、あまり普…

白いコーヒーカップ その28

家に帰り着くまで、よく事故を起こさなかったものだ。ずっとぼんやりと、上の空で1時間くらいかけて自宅に到着した。ドアを開けるなり母親が聞く。 「出て行ったと思ったらすぐ帰ってくるのね、なんかあったの?」 「うん、すごくいいことがあった。」思い…

白いコーヒーカップ その27

またボールペンで後頭部を叩かれて目を覚ますと、恵の顔が目の前にあった。 「おい、いつまで寝てるつもりだよ、ったく少しは人の身になれよ。」恵が言う。 時計を見ると、すでに午後3時、私の教室にいるのは、私と恵だけだった。 「あ、つい子守唄みたいに…

光と影のシンコペーション

に、彩られる季節がもうすぐ・・・待ち遠しい・・

白いコーヒーカップ その26

4時間目はまもなく終わり、私は隣の部屋の恵の席に行って、 「ごめん、遅れる気は無かったんだ。」と謝った。 「いいからメシでも行こうぜ、どうせそのために来たんだろ、メシ食いに。」 「じゃあ、中大、でいいよな。」 「乗せてってね。」 「いや、今日バ…

白いコーヒーカップ その25

月曜日の朝、その日は午前11時に目が覚めた。 「しまった!」と生まれて初めて声に出して叫んだ。その声を聞いて、母親が、 「なんかあったの?」とのんきに聞いてくる。 「何で起こしてくれなかったんだよ、ほんとに。」 「だっていつも起こしてもまた寝る…

白いコーヒーカップ その24

私は自宅について、恐る恐るドアを開ける。 「あんた、また遅いじゃないの。・・酔ってる?」目ざとく母親が問い詰めてくる。 「ちょっと、飲んで来たんだ。」 「あの子と、でしょうね?」 「・・・そう、だよ。」 「別の子とだったらひっぱたくところよ、で…

白いコーヒーカップ その23

私は支払いを済ませて少し涼しくなった財布をしまって、少し涼しくなった夜の空気を浴びた。 「じゃあ、うしろのりな。」 「大丈夫か、飲酒運転のくせに。」 「へいき、コーヒーで醒めたよ。」 そういうと恵が後ろに乗って、肩にもたれかかってくる。 「うれ…

白いコーヒーカップ その22

注文を告げてしばらくすると、タルトと白いコーヒーカップが運ばれてきた。私は熱いコーヒーをブラックで、恵はミルクだけを入れて飲みながら、タルトを食べていた。 「めぐ、これ半分あげるよ。」私は自分のタルトを半分に切って、恵に言った。 「じゃ、遠…

白いコーヒーカップ 外伝

★例のシリーズの元ねたはこの小話だったりします。朝は雲ひとつない晴天だったが、午後になって日が翳り始め、それからは一気に土砂降りの雨になった。「傘は?」下駄箱で、靴を履いていたときだった。 ふと振り返ると傘を手首に引っ掛けて、ぐるぐる回して…

白いコーヒーカップ その21

「あーおいしかったね。」恵が言う。 「だね。でももうちょっと食べたかったな。」 「まだあるでしょ、お皿。」 「そのはずだけど・・・」 ウェイトレスが私たちのテーブルからラザニアのお皿を下げていった。 「乾杯・・しよ。」 「・・・うん。」恵もなん…

白いコーヒーカップ その20

いつもの憎たらしい恵が戻ってきたところで、ワインの残りを二つのグラスに注いだ。ブルゴーニュグラスの半分くらいだった。 「やっと、いつものめぐになったね、いい顔してるよ。」私もほっとしてそう言った。 「バカ、恥ずかしいじゃない・・やっと私に惚…

白いコーヒーカップ

なんか、冗長な文章な気がする・・・続編として「濃緑の季節」「忘れられない夏」「秋の夕暮れに」「春の息吹」があるんですけど、打ち切ろうかな・・・原稿用紙200枚分くらいあるし。

白いコーヒーカップ その19

しばらく、目の前のサラダを食べていた。有線放送は、ピアノとベースが絡むジャズを奏でていた。 「・・・あんた、しっかりしてるよね・・うらやましいよ。」唐突に恵が言う。 「えっ?」 「いや、さ。わたしなんか惰性で生きてるような気がしてさ・・なんか…

白いコーヒーカップ その18

「とりあえず、乾杯しようよ。」恵が言った。 「そうだな。じゃあ、えーと・・・何かに乾杯!」 私と恵はグラスを合わせて、ボージョレを飲んだ。酸味が利いたフルボディのワインは初めてだったが、のみやすくておいしかった。 「おいしいな、これ。お前知っ…

白いコーヒーカップ その17

金曜日の夜、お店はがやがやと混みあっていたが、二人分の席は確保できた。私は少々こわばりながらも、店員を呼んで、ディナーのコースを二人分とボージョレ1本、グラス二つを注文した。身の丈にあっていると思ったのだが、いざ来てみると緊張した。そんな私…

白いコーヒーカップ その16

・・・・・ 「でさ、Queenのベスト盤が気に入っちゃってさ、毎日通学のときにCD聴いてるんだ。」 「Queenは私はわかりませーん。」恵は、そうは言いながらも楽しそうに音楽の話に付き合ってくれている。私も、恵もほぼノンジャンルで音楽を聴いていて、好き…

大きな木の下で

帰宅の道での突然の雷鳴と瞬時に降りだした大粒の雨。私は近くの木の下に雨宿りをする。そのとき鞄を頭の上に掲げて走りこんできた君がいた。彼女は部活のタオルで鞄と頭、水浸しになった全身を拭いて私の方にそのタオルを差し出した「これでふきなよ」 「あ…

白いコーヒーカップ その15

中央大学の学食から帰って、5,6時間目の授業を寝てすごす。すやすやと寝ている私の後頭部をボールペンでひっぱたかれて、目が覚めた。もう、授業は終わっていて、生徒たちは帰ったり、部活に行ったり、教室に残っているのはわずかだった。 そして、後ろを…

白いコーヒーカップ その14

翌日は朝から曇り空だった。鉛色の空の下を自転車で、学校へ。窓の外も鉛色に見えて、気持ちにも暗雲がさすようだった。退屈な授業を上の空で聞いていた。休み時間に、隣のクラスに行ってみると、恵がいない。じゃあ、あそこかな、と進路指導室に行くと恵が…

白いコーヒーカップ その13

私は恵の住む池袋をあとにして、明治通りをひたすら王子方面に進む。途中、西巣鴨で中仙道に入って、赤羽方面へ。長い距離をチャリンコで走るのは大変だが、今日はなんかうきうきしていた。明日もチャリンコで学校に行こう、と思った。 家に帰り着いたのは、…

白いコーヒーカップ その12

ミスタードーナツでは、今日の後楽園の話で盛り上がった。コーヒーのお代りを何度しただろうか。 「じゃん」 私は、リニアゲイルの途中でとった写真を見せた。自動的に撮影して、お金を払うともらえるのだ。 「なんか、私、すごいかおしてるじゃん、やめてよ…

白いコーヒーカップ その11

並んでいる列の後ろに私と恵はならんで、学校での話題に花を咲かせていた。階段を上っていくと、ラクーアが見えてくる。 「帰りにラクーアよって行く?」と私は冗談交じりに言って見る 「バカ、何言ってるのよ、もうほんとバカなんだから」恵がほっぺたを膨…

白いコーヒーカップ その10

私は虚をつかれてしまった。そういえば、今日の恵はきれいなアイラインを引いて、赤いルージュをさし、まつげもきれいにカールしている。どうせ、恵の好きな絶叫マシンに乗ったら一発で台無しだぜ、とか思いながらも 「そういや、今日のめぐ、ぱっとしてるよ…

白いコーヒーカップ その9

3時間目の途中に私は学校に着いた。教室の扉を開けると、皆の視線を浴びた。恵の顔がぱっと明るくなって、ため息をついていた。 「何しに来たんだ、いまごろ」 歴史の教師がいやみたっぷりにきく。 「え、あ〜あの、先生の授業には出たいなと思いまして」適…

白いコーヒーカップ その8

家に着くなり母親が「遅いじゃない」と詰問してくる。 「いや、さ、ちょっと映画に・・・」うろたえる私 「・・・ふーん、じゃあこれ以上何も言わないよ」 その日の夜は、恵と後楽園に行ったときのことを考えて、よく眠れなかった。朝になってもよく眠れない…

白いコーヒーカップ その7

映画は大どんでん返しを迎えて、しばらく感慨にふけってエンドロールに見入っていた。「なぁ、すごかったな、あいつ」と恵 「おお、久しぶりにこんなの見たよ、ここまでのは初めてだよ」 「じゃ、そろそろ行こうか」と、こんどは私が恵の手を引いて出口に向…

白いコーヒーカップ その6

エレベーターで上に上がってみると、ちらほらと並ぶ客がいた。私たちも、通路に座り込んで並ぶことにした。 「ちょっと待ってて」と恵 「ああ、並んでるよ、便所か?」 「アホ、違うよ。しかしお前下品だな」 しばらくすると、恵がでかいコカコーラの紙コッ…

白いコーヒーカップ その5

そんなことをしながら、いつもの池袋の街に来た。目的地は、シネマ・サンシャイン。通称「シネシャン」だ。私服姿なので、とくべつ目立つこともない。雑然と下町を、雑多な人々が通り過ぎる。チラシを配る黒人、何をしているんだかわからない10〜20代の若者…

白いコーヒーカップ その4

私と恵は、図書館の中を一緒に歩く。理工学部の校舎なので、ちんぷんかんぷんの本ばかりだだらだらと、わかりそうな本がないか探しながら歩いていたが、論文誌や専門書ばかりでさっぱりだ。 「おーい、全然わからねーよ」と恵が呼びかけてくる。 私は手を上…